この地学的見解は、関連する資料から弊社の地質技術者が独自にまとめたものであり、現地調査や研究によって明らかにしたものではありません。また、住民の方の不安を煽るものではなく、防災に役立てていただきたい思いで公開しますので、読者の方には十分な理解とご配慮をお願いいたします。また、現段階では全くの仮説に過ぎず、今後は、様々な専門的アプローチで検討することをお勧めします。
1.概要
震源位置:福井県吉田郡永平寺町栃原地先(鷲ヶ岳の北西側斜面上部付近)
図-1 地震情報(気象庁のHPより」引用)
2.地形・地質概要
震源位置は、九頭竜川右岸側に位置する鷲ヶ岳(標高769m)の北西側斜面に位置します(図-1の×印)。背後には浄法寺山(標高1053m)、丈競山(標高1045m)など急峻な山があり、山腹斜面は侵食崩壊が進んだことで急な崖となっています。震源周辺の地質図と活断層を図-2に示します。
図-2 震源付近の地質および活断層の分布(産業技術総合研究所 地質NAVIより引用し加筆)
この周辺で最も古い中生代の花崗岩類や片麻岩が基盤岩となります。その後、新第三紀の火山活動によって噴出した火山岩(安山岩およびその同質火砕岩類)が基盤岩を被覆するように分布しています。さらに、浄法寺山・丈競山や火燈山の噴火で流紋岩類を噴出しました。このあたりでは、安山岩質のマグマが放射状に広範囲へと流れ出したため、九頭竜川から剣ヶ岳にかけてやや円形の地形となっています。噴出した後の安山岩や流紋岩が急速に冷えたことで出来た節理(割れ目)は、地下水を貯めやすい構造となります。龍ヶ鼻ダムの水源は、この地下水と関係しているかもしれません。
福井平野の東縁または山麓付近を南北方向に走る福井平野東縁起震断層に属する一連の活動セグメントが存在します。「日本の活断層(活断層研究会)」では、篠岡断層、松岡断層、細呂木断層、剣ヶ岳断層と呼ばれています。しかし、今回の震源の周りに活断層は示されていません。今回の地震がこの一連の活断層に関連しているかは現在のところ不明です。
震源周辺の空中写真(整理番号:CB-86-1Y C2-7)を用いて、リニアメントや線状構造を判読しました(図-3参照)。その結果、明瞭な連続した線状構造は認められませんが、北東-南西系と直交する北西-南東系の線状模様および崩壊跡地形が認められました。それらの線状模様に沿う形で沢が発達しています。線状模様は、リニアメントまでは発達せず不連続です。
図-3 震源付近の空中写真判読結果(国土地理院空中写真CB-86-1Y C2-7 撮影縮尺4万分の1に加筆)
3.今回の地震についての見解
- 福井平野東縁起震断層に属する一連の活動セグメントは、震源より西へ約10km離れたあたりを南北方向に分布していますが、震源付近では同じ方向の線状構造は認められず、同一の活動セグメントに属するかは現段階では不明です。
- この周辺の地質構造は、中生代の基盤岩の上に新第三紀の火山活動で安山岩や流紋岩系のマグマが放射状に噴出したと想像されます。この火山岩は急冷により節理が発達し、地下水が貯留しやすい水理構造と想定され、山体に多くの地下水を貯留していると思われます。標高500m付近にある浄法寺山青少年旅行村(現在閉鎖中)には豊富な湧水(永平寺町名水指定No.1)があり、これらの地質構造と関係しているかもしれません。
- 震源の深さは10kmと浅く、内陸直下型地震です。2022年に発生した能登半島北東部の群発地震も震源13〜15kmと同じような傾向です。能登半島は非火山地域ですが、地殻流体(水)が群発地震活動の原因となることが東京工業大学理学院地球惑星科学系の中島淳一教授によって明らかになりました。万が一、今回の地震が群発地震へと続くとなれば、能登半島の地震メカニズムとの類似性を検討すべきかもしれません。